2018/08/05
ねいろ屋@神保町 「弓削塩らーめん」

あまりの酷暑に耐えかねて、ここ2週間ほど週末は、家にこもって出汁づくりと映画三昧で過ごしておりましたが……神保町に、どうしても行ってみたいお店ができました。照りつける日差しの中、いつもの路地と相も変わらぬうどん屋の行列。

7月オープンのこのお店、2015年に創業した荻窪「ねいろ屋」の初支店で、ラーメンとかき氷のお店です。麺メニューは「瀬戸内レモンラーメン」「弓削塩らーめん」「汁なしレモンソバ」の3本立て、かき氷もこの日は「女峰いちごミルク」「甘夏」など6種類、「ミルクセーキ」が筆頭に来るあたりが、瀬戸内生まれのオジさんの心をくすぐります……が、この日は最初から「弓削塩らーめん」(850円)が狙い(後会計制)。なぜなら数カ月前にネットで流れてきた記事を読んだから。

その記事は「弓削塩」に関するもので、古代から明治まで続き一度途絶えた、愛媛県上島町の弓削島の藻塩づくりが、8年前から復活したというもの。「塩なのに甘い」と全国の料理店から注文が入るようになり、米国で「人生を変える世界のトップレストラン10」に選ばれた、赤坂「TAKAZAWA」のオーナーシェフ高澤氏もお気に入りだとか。シェフ曰く、「弓削塩は海藻が入っている分、複雑な甘みがあり、うまみを感じる」……どんな酷暑であろうとも、弓削塩を前面に押し出したラーメンを、見逃すわけにはいきません。
弓削塩の魅力をストレートに味わうことができるよう、かけラーメン&具材別皿という、願ったり叶ったりな丼構成。まずは、スープをひと口……あぁぁ、瀬戸内のゆったりとした「時間」を感じますなぁ。ベースはフックラとした風味の鶏出汁で、まぁるいコクが印象的。これに対して、最初はささやくように、しばらくするとそよ風のように、弓削塩のホンノリとした甘味が微笑みかけます。こちらのコクもまぁるくて、まぁるい鶏出汁と談笑しているような、のどかな雰囲気。
麺は、中細のストレート。国産小麦特有の、控えめながら優しい甘味、その純朴な味わいが、スープの「談笑」に包まれて……瀬戸の小島の段々畑で、農家の娘三人がのんびり井戸端会議しているような、そんなのどかさ。実にしなやかなゆで加減で、まるでその風のように喉奥に消えます。
具材は、チャーシュー、メンマと海苔に、薬味のネギ。個人的には、こういう繊細なかけラーメンに具材別皿の方式は久々でしたので、具材をひとつ加えるごとに、ひとつひとつの表現力が際立って、「コーラス」の輪が広がるような演出は実に新鮮。正直言って、非常に印象的だったのは実はネギで、加えた初期の苦みと辛みが鮮烈で、その後ジンワリとにじみ出てくるネギ本来の甘みが、スープ・麺の「談笑」の輪に加わるようななりゆきは、なんとも心くつろぐ、かけがいのない「時間」……

古代より受け継がれ、一度は失われた瀬戸の記憶が、また時空の彼方から、静かに微笑みかけるような悠久の味。私の実家も、瀬戸からの風が南から北へ吹き抜けるような家なのですが、両親はさらに瀬戸の島に小さな小屋を借り、そこに通って農作業もやっています。私もその小屋の縁側に腰かけて、瀬戸内海をながめながら、両親の談笑に包まれる幸せを感じたものですが……その小屋も、先日の西日本の豪雨で少し被害を受けたとか。そんな悲しい現実も、ふと忘れさせてくれそうなこの味を、肩をおとした両親へ、届けてあげたいと思った一杯でした。
店舗情報は、こちら。
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